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西に船形連峰、南に黒川丘陵、北に加美・志田丘陵と、3方を美しい山々に囲まれ、巨人が作ったという七ツ森の伝説を有する宮城県黒川郡大和町。若干20歳の青年が、自らの出身地であるこの地で、裸一貫から小さな水道設備の会社を興しました。やがて仕事先の会計事務所で働いていた女性と結婚。1998(平成10)年には新たに不動産開発会社を設立し、急傾斜地の土留め工事や通学路の整備などに精力的に取り組み、災害に強い安心・安全な街づくりの一端を担ってきました。不動産業が軌道にのってきた頃、事業の大黒柱だった夫が大病を患い、手術を受けるという試練を受けます。そしてこの時、がむしゃらに進んできた歩みをいったん止め、これまでの軌跡と今後の事業のあり方を見つめ直します。残りの人生でいったい何ができるのか、これまでお世話になった多くの人々、地域に何か恩返しができないだろうか。
2011(平成23)年に起きた東日本大震災。夫婦は、復興への思いも込めて、それまでとはまったく違う分野である社会福祉法人「やまとみらい福祉会」を仙台市泉区に設立します。

中古トラック1台から始まった夫婦の事業は、今や「水道」「不動産」「福祉」「農業」の4つの分野にまたがる事業に発展しました。どの事業も夫婦2人で助け合い、補い合いながら、懸命に真正面から取り組んできた結果です。電車や車では行けない場所、見過ごしてしまう場所でも、細い道に分け入ることができるオートバイなどの二輪車なら発見できます。大企業ではできないそんな道を模索しながら、コツコツと開拓してきた夫婦の事業。その夫婦が町を“変える”べく新たに挑戦したのが、大和町にワイナリーを創ることでした。ワイナリーの名称、「了美 ワイナリー&ヴィンヤード」は、夫婦の名を1字ずつとってつけられたものです。この新たな事業にも夫婦は両輪(twowheels)となって取り組むことになります。実は「wheel」には「変化」という意味があります。また、「wheels」には「推進力、動力」という意味もあり、常に前に向かって着実に進んできた夫婦の歩みにも通じます。

ワイナリーが創られる場所は、大和町の西、赤崩山に抱かれた自然豊かな牧草地。放牧されていた牛がこの地の草をとりわけ好んだというほど良質な土壌を有する場所です。近辺には、セリやワラビ、クレソンも自生しています。そして大和町には、自然の中で育まれた山野草やキノコ、川魚など、地域の人にとっては当たり前の、けれども地域外の人たちには未だ知られていない“山の恵み”がたくさん生息しています。降り注ぐ太陽の光、豪雪や長雨、乾燥に負けぬよう根をしっかり支え包み込んだ土の香りや清流のせせらぎ、山間を吹き渡る爽やかな風。山の恵みを育んだこの地固有の気候風土を五感で感じ、その年の四季に思いを馳せながらワイナリーでいただく食事は、素材本来の滋味深い味わいが味覚を呼び覚まし、都会では得難い、自然由来の贅沢を存分に楽しむ心豊かな時間になるでしょう。そしてワインとのマリアージュは、山の恵みから新しい価値を引き出し、地域の人々は、大和町の自然に大きな可能性が潜んでいることに気づくことでしょう。「了美 ワイナリー&ヴィンヤード」は、大和町を訪れる人に“新しい豊かさの価値”を与えるだけでなく、地域に住む人々に自然に対する畏敬の念と誇りを取り戻させ、自分たちが住む町の “豊かさ”に気づかせてくれるのです。

大和町は山と水が織りなす緑の町。「やまとは国のまほろばたたなづく青垣山ごもれるやまとしうるはし」と日本の国づくりの神話に詠まれたうたを再現したかのように、大和町は三方を青垣の山々に囲まれています。「了美 ワイナリー&ヴィンヤード」はその青垣の山々を抜けた先、ぽっかりと空に向かって開かれたような場所、大和町吉田旦ノ原のなだらかな丘の上にあります。

ワイン文化と地域資源の融合により新たな地域ブランドや地域資源創生の場となるワイナリーには、その事業の可能性や大和町の地域振興といった志に賛同し、地域住民のみならず外部の人々も引き寄せられてきます。ワイナリーに叡智が結集した結果、人々がつながり、そこから新しい価値観が創造されていくのです。

ワイナリーの特徴は、年間を通して楽しむことができることです。ワイナリーでは、春は新緑、夏は万緑、秋は紅葉、そして冬は雪景色と、移り変わる景色を眺め、季節ごとの旬を味わい、収穫祭などの様々なイベントを子どもから大人まで、家族のみならず、地域住民や地域外の人たちとともに存分に楽しむことができます。“大和町のワイン”という未来を描いたワイナリーは、家族や地域の人たちの絆を改めてつなぎ、新たな夢や希望を与えることになるのです。

ワイン造りは、農業であり、化学でもあり、文化でもあります。ワイナリーを訪れた人々は、その年の気候の変動による葡萄の生育状態、出来栄えを考察し、ワインに至るまでの発酵過程を目の当たりにします。見る・聴く・触る・嗅ぐ・味わうなど、ワイナリーは五感を駆使しながらふだんの生活では知ることのできないものに触れ、見て・体験することができる「学びの場」となるのです。農業、食育、課外授業、OJT、インターンシップ、ボランティア……。「了美 ワイナリー&ヴィンヤード」はワイン造りの多様性を捉え、幅広い層に体験の場、学びの機会を提供します。

夫婦がつくりあげてきた事業で最も大切にされてきたのは、“人”です。夫婦がつくった特別養護老人ホームを例にあげれば、そこで働くスタッフ一人一人が優れた面を発揮し、チームワークによって入居者の暮らしを優しく結び、“有難う”という感謝の気持ちを忘れずに、勇気を持って前進するための4つの言葉「優・結・有・勇」が基本理念に掲げられています。苦しいとき、悩んだときに立ち返ることができるこうしたコンセプトを徹底させた結果、そこで暮らす人々の生活の質を第一に考え、明るく楽しく笑顔が絶えない家族経営ならではの温もりや気遣いにあふれた独自のホスピタリティが完成しました。葡萄の生長を見守り、丁寧な仕事でワインを熟成させ、遠来の客をもてなすワイナリーでは、こうした家族的な温かさやホスピタリティが存分に発揮されるはずです。このような事業体がワイナリーから継続して創出されることにより、ワイナリーを核に町中がホスピタリティに溢れる町に醸成され、活気づいていきます。職を求めて出て行った人たちが戻りたくなり、住んでいる人たちが誇れる町。そして、ここに移り住みたいと多くの人が思える町。そんな大和町の未来を変える力をワイナリーは秘めているのです。